【連載】NFTが変える経済とビジネス
今回は、NFTと並んで関心の高いメタバースの話を書いてみたいと思います。「フォートナイト」「HIKKY」「バーチャル大阪」「クラスター」、このいくつをご存じでしょうか。特にメタバースを運営するプラットフォーム企業が、今どのようなビジネスを展開しているのかについて紹介していきます。それと、拙著『だれにでもわかるNFTの解説書』が4刷になり、韓国でも本が発売されました。世界的にもまだまだNFTの勢いは落ちないようです。(文・足立明穂)
足立明穂氏のプロフィール
米津玄師や星野源がライブを行うフォートナイトは無料のゲーム
フォートナイトは、アメリカのEpic Gamesが運営しているオンラインゲームです。最大100人が同時に戦うシューティングゲームで、10代を中心に世界中にユーザがおり、2020年にはアメリカの人口を越えて3億5,000万人のユーザになったことで話題になりました。
◇フォートナイト
https://www.epicgames.com/fortnite/ja/home
面白いことに、ただバトルするだけでなく、非戦闘エリアがあってアバターでコミュニケーションを楽しむ場所が設けられています。そして、その場所を利用して、国内外のミュージシャンがバーチャルライブを開催し、日本では、米津玄師さんや星野源さんも行っています。星野源さんのライブでは、アバターの動きのプログラムが配布され、参加者が同じダンスをするといったイベントになっていて、メタバースならではの一体感が演出されていました。
このフォートナイト、オンラインゲームなので月額課金かと思いきや無料で遊ぶことができ、先のフォートナイト内でのライブなども無料で参加できます。では、一体どこで稼いでいるのでしょうか?
フォートナイトで販売されているのは、アバターが着る「デジタルの服」。上着やシャツ、帽子や靴なども販売されています。どれも数百円から数千円程度の価格です。そもそも、フォートナイトはバトルゲームなので、衣服を変えたところで強くなるわけではありません。しかし、面白いことに10代の若者たちは、「カッコイイから」「かわいいから」という理由で「デジタルの衣服」にお金を払います。
この課金方法を、Appleストアを通さずに直接フォートナイトで課金できるようにしたことからAppleと裁判になり、その裁判の場で、フォートナイトの売り上げが公開されました。18年と19年の2年間で約1兆円! 年間5,000億円と考えると、アパレルブランドのプラダと同じレベルです。そう、「デジタルの衣服」であっても、もはやアパレルブランド並みのビジネスになっているのです。
こいう規模のビジネスになっていることを知っておかないと、「メタバースなんて、まだまだお遊びでしょ?」「アバターのアイテムなんて小さいビジネスでしょ?」と思っていたら取り残されてしまいます。
日本発でメタバースとeコマースを展開するHIKKY
HIKKY(ヒッキー)は、日本初のメタバース企業で世界でも知られる存在です。22年1月にはシリーズA資金調達で70億円を達成し、100万人が集まるバーチャルマーケットも主催しています(この規模はギネス記録)。
◇株式会社HIKKY
名前からも分かるように、「引きこもり」であってもメタバースなら生き生きと活躍する人がいることから、さまざまな人たちが集まって社会生活ができるようなメタバースを目指しているそうです。
そんなHIKKYでは、大手企業から中小企業まで多種多様な業種が出展し、それぞれの世界が構築されています。例えば、JR東日本の秋葉原駅を再現したバーチャル秋葉原駅や、アウディジャパンのVR試乗体験、BEAMSのバーチャルショップ、ソフトバンクホークスのバーチャルショップなどさまざまな店舗やイベントが存在しています。
バーチャルショップでは、アバターの店員が接客し、商品について音声やチャットで質問でき、デジタルの世界でありながらも商品をアバターの手に取ることができたり、アバターに試着したりすることも可能です。もちろん、気に入ればオンライン購入して、商品が送られてきます。
購入するお客さん側からすれば、リアル店舗と違って気軽に出入りできる(気まずくなれば、いきなりログオフ)という安心感があり、アバターの店員相手なので目線なども気になりません。
一方、アバターの店員側にとっても、通常のオンラインショップと違って、お客さんの反応が伝わってくることや、細かな要望などが分かるというメリットが多いそうです。
このようにリアル店舗でも、オンラインショップでもなく、メタバースだからこそのメリットを十分に考えているところが業績を上げています。
大阪万博でバーチャル大阪を実現するcluster
25年、Expo2025大阪・関西万博がされます。それに向けてメタバースでも準備が進んでおり、すでにバーチャル大阪というメタバースが誰でも入れるようになっています。
◇バーチャル大阪
これを運営しているのはclusterという会社で、KDDIの中馬和彦事業創造本部副本部長を社外取締役として迎えていることからも、KDDIとのプロジェクトが多く行われています。
◇クラスター株式会社
特に、渋谷の街をメタバースで再現し、「バーチャル渋谷」をイベント会場として貸し出すという事業はユニークです。現実ではできないスクランブル交差点路上ライブや渋谷の空を彩る花火大会といったことも可能です。
さらに、これらの都市を再現するのに、地域の自治体や商店街などと連携しているので、よりリアルな街を再現したり、現実の街との共同開催イベントを行ったりするといった展開も可能。リアルとバーチャルを連携させるのは新しい試みです。
バーチャル大阪も日本に来ることができない海外の人たちが集うようなメタバース万博として、万博の歴史を大きく変えるターニングポイントになりそうです。
今回はメタバースを運営する企業の紹介をしました。メタバースというと、社名変更したことでニュースになったMeta社(旧Facebook)のVRゴーグルやそれに関連するサービスが紹介されることが多いのですが、日本の企業も頑張っています。まだまだ始まったばかりなので、これからもユニークなメタバース企業が出てくると思いますよ。