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ユニコーン輩出の鍵はスピード。天才の技術を眠らせない GVE 房 広治

GVE 房広治

主に発展途上国に向けて、中央銀行発行の法定デジタル通貨(CBDC)のプラットフォーム開発を手掛けるGVE。いまだ10社に満たない日本のユニコーン企業として知られる同社は、米国のテック・ジャイアンツに伍するプラットフォーマーになるべく、セキュリティに関する国際的な基本特許も取得し、足元を固めている。文=金本景介(雑誌『経済界』2022年12月号より)

GVE 房広治
GVE 代表取締役CEO 房 広治ふさ・こうじ
――1959年生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、英国留学を経て、イギリス系のインベストバンクに就職し、欧州でM&Aを手がける。98年にUBS信託銀行社長、2000年にクレディ・スイス証券の社外役員等を経て、17年GVEを創業。

プラットフォーマーになる基本特許戦略の有効性

── 世界的に法定通貨のデジタル化の潮流があります。

 米国のテック・ジャイアンツに対抗できるプラットフォーマーになるべく、SONYで「Felica(フェリカ)」を開発した日下部進氏とともに2017年に当社を設立しました。フェリカは非接触のICカード技術ですが、世界的なキャッシュレスのルーツです。しかし世界に先駆けたこの技術も、SONYは生かしきることができず事業として大成させることはできませんでした。

 そこで私は、日下部氏がつくり上げたこの世界最高水準のセキュリティレベルを持つ技術をビジネスに応用し、ペイパルをはじめ世界的にも競合がひしめている決済領域の世界市場で勝負することにしました。

── GAFAMに比肩していくために、どのような戦略を立てているのですか。

 日下部氏と半年間にわたる議論を経て方針を固めました。当社のセキュリティ技術の国際規格化、および「基本特許」の取得です。

 基本特許とは、その周辺にさらなる改良特許を生み出していく、極めて広い範囲にわたる特許であり、世界で戦うためには必要不可欠です。アマゾンで例えれば、「1-Click注文」の基本特許は、17年に切れるまで、同社に莫大な利益を生み出しました。日系企業が取得した目ぼしい基本特許は日亜化学の青色発光ダイオードや京都大学の山中伸弥氏のiPS細胞等が有名ですが、まだまだ申請数も少ないのが現状です。

 当社の場合は、昨年の「秘密鍵の電子署名装置」についての国際的な基本特許が承認されました。この個別秘密鍵システムは、今後、どんな暗号も破ることができるとされる量子コンピュータが発達しても、突破されることのない高いセキュリティを誇ります。

── 発展途上国に向けてCBDCプラットフォームを展開しています。

 銀行口座を持つことができない国民が多い途上国でも、携帯電話の保有率は100%に近付いています。法定通貨をデジタル化することで、手持ちのスマホを通したキャッシュレス決済が可能になり、全ての人が金融サービスを利用することができる「金融包摂」が実現します。

 具体的には、現在ネパールでプロジェクトが進んでいます。19年に首相、財務大臣と中央銀行総裁にプレゼンをしましたが、コロナ禍で2年間半動けませんでした。しかし、その間に実際に稼働させるシステムをつくりましたので、実際に当社のシステムを載せたサーバーを政府に貸し出し、パフォーマンスを確かめてもらいました。ネパール中央銀行の関係者からは、個人情報の保護や、口座開設時の本人確認の正確性、マネーロンダリング対策の観点からも中国側のシステムよりも優れているという評価を頂きました。

── CBDCにおける競合は「デジタル人民元」を運用する中国政府になるのですか。

 そうです。ただ、デジタル人民元は、アリババのアリペイの延長線上に過ぎないという声もあり、メッキが剥がれつつあります。とはいえ、中国は国を挙げて、インフラとしての金融システムを海外に輸出しています。自国の経済圏に取り込もうという狙いから、30年の返済期間で、2千億円以上のシステムの導入費用を丸ごと貸し出しています。強大なライバルです。

日本のユニコーンを増やす突破口はどこか

── 国内のユニコーンの数を増やすにはどのような発想が必要になりますか。

 科学・技術・工学・数学のそれぞれの頭文字を取った「STEM」の思考法でしょう。日本にユニコ―ンがわずかなのはサイエンスベースでビジネスプランを構想できる経営者が少ないからです。つまり、どのような市場でどの程度シェアを取るかを厳密に計量した上で、投資家にプランの魅力を伝える説明が不十分なのです。優れた技術でも株価が上がらなければ失敗します。

 日本にも、アカデミアには優秀なSTEM人材が大勢いますが、彼らには金融のバックグラウンドがない。これらの専門性の組み合わせを果たせなければ日本は衰退します。

── VCの活躍も目されています。

 日本には米国のようにリスクを取れるVCがまだまだ足りません。例えば、ペイパルの創業者であり、初期のフェイスブックにも投資したピーター・ティール氏は、成功すれは100万倍になるのだから0・01%の確率でもドンドン投資します。

 このようなアグレッシブな投資が日本にも求められています。国内のVCだけでベンチャー投資を完結する必要もないわけですから、セコイア・キャピタルなどユニコーンを多数輩出する米国のVCも、日本市場に価値を見いだし、投資していく機運が高まるよう産業界は取り組んでいくべきです。日本から企業価値が数万倍になるような会社がコンスタントに出てこなければ世界中から投資マネーを集めることは難しい。

── 世界から見た日本市場の魅力を高めていく必要があります。

 成功体験と自信に基づいたバブル時代の経営者がしていた積極的な投資がなくなった現在、この30年間で世界をリードするような成功を収めた日本発の企業はほとんどありません。

 しかし、いまだ国内で評価されていない最先端技術を発掘し、そこに適切なビジネスプランとお金をスムーズに注ぐことができれば、日本にもインドや中国のように多くのユニコーンを生み出すポテンシャルがあるはずです。必要なのは、日下部氏やリチウムイオン二次電池を開発したノーベル賞受賞者の吉野彰氏のような天才たちの持つ尖ったビジョンを認めて、ビジネスとして実行していくスピードです。