コンクリートに新しいテクノロジーを掛け合わせることで、イノベーションを創出してきた會澤高圧コンクリート。次なる目標である再生可能エネルギー由来の水素供給に向けて、コンクリートの新たな可能性が広がる実証機の開発が始まっている。(雑誌『経済界』「新時代を切り拓く北海道特集」2023年2月号より)
グリーンアンモニア製造艦「MIKASA」を苫小牧で
資源が乏しい日本では、化石燃料の多くを海外からの輸入に依存している。また化石燃料の利用によるCO2排出量の増加は、気候変動を加速させるものとして世界的に大きな問題となっている。セメント・コンクリート産業の脱炭素化にいち早く取り組んできた會澤高圧コンクリートでは、業界全体に脱炭素化運動の輪を広げようと、自主開発の虎の子の技術を同業者に移植する「aNET ZEROイニシアティブ」を推進している。
そして今、化石燃料からの抜本的なエネルギーチェンジを目指して開発を進めているのが、コンクリートの浮体を使ったグリーンアンモニア製造艦「MIKASA」だ。
社長の會澤祥弘氏は、「先端的な触媒技術を活用したフルコンクリート製の一号艦の進水を2028年までに果たしたい」と話す。
「MIKASA」は洋上風力で生み出した電力を使ってアンモニアを製造、電気ではなく燃料として海陸輸送し、特殊な触媒技術によって使用する直前にアンモニアを水素に転換するこれまでにない水素の供給方法だ。
「水素は究極のグリーンエネルギーですが、運搬や貯蔵が難しい。アンモニアを水素キャリアとして使えば、水素運搬や貯蔵のコストが劇的に削減できます。洋上でグリーンアンモニア燃料を生み出すことは、わが国の領海に24時間休みなく燃料を生産し続ける固有の油田を持つのと同じこと。アンモニア製造艦を世界第6位の面積を誇る領海に大量に浮かべれば、他国へのエネルギー依存を減らしながら脱炭素への道を拓き、最終的には国産エネルギーで自立することだってできるのです」
高さ100mを超える洋上風力タワーを支えるのがコンクリート製の巨大な浮体。その量産化技術の確立に向けて會澤高圧コンクリートは独自に開発してきたテクノロジーを総動員しようとしている。
例えばロボットアームでコンクリートを印刷するように積層するコンクリート3Dプリンター。巨大な浮体の製造に欠かせない型枠の製造を鉄ではなく、3Dプリンターを使うことで、工期の短縮とコストの大幅な削減が見込めるからだ。
ただロボットアームでは腕の長さの制約を受けてしまう。そこで同社は、空中で自由にコンクリートを印刷する空飛ぶ3Dプリンター「F3DP」を実現させようと、排気量1千㏄に及ぶ大型二輪エンジン技術を使ったドローンの独自開発も進めている。最大積載量は実に150㎏。コンクリートを射出するノズルを機体に取り付け、飛行しながらコンクリートを積層して構造物を製造する、まったく新しいコンクリート製造手法だ。
また同社が開発したバクテリアの代謝でひび割れを自動修復する自己治癒コンクリート「Basilisk」を使うことで、浮体の安全性を高めることも可能となる。
「一号艦は地元の苫小牧港のドックで製造したいという思いがあります。誰もまだ見たことのない〝シン・エネルギー〟を地元の港湾で実証する意義は大きい」
ワインのタンクもコンクリートの時代へ
「コンクリート以外はやるな」が家訓という同社。世界の大学や研究機関の最先端技術をいち早く学び、コンクリートとの掛け算で、驚くべき製品を開発してきた。
「イノベーションとは単なる技術開発ではなく、テクノロジー同士の掛け算で世の中が変わることを意味します。MIT(マサチューセッツ工科大学)などの大学や研究機関の論文を可能な限りチェックし、コンクリートの進化につながる技術であれば、共同開発したり、出資も行っています。コンクリートで社会の課題を解決できることはまだまだあるのです」
最近ではコンクリート製のワインタンクの普及にも挑戦している。「コンクリートはステンレスと違って酸素を通し、外気温の影響を受けにくい。実際、当社のコンクリート製タンクを日本を代表するワイナリーで使っていただき、高い評価を得ています。現在は北海道・長野・山梨のワイナリーでコンクリートとステンレスの比較検証プロジェクトもスタートさせ、科学的な根拠を得たいと考えています」
来年春には福島県・浪江町で、研究・開発・生産の3機能を兼ね備えた次世代中核施設「福島RDMセンター」を開業する。イノベーションに一段と拍車がかかりそうだ。
会社概要 創業 1935年4月 売上高 203億円(2022年3月期) 本社 北海道苫小牧市 従業員数 646人 事業内容 コンクリート製品の開発・製造・販売 https://www.aizawa-group.co.jp/ |