経営者コミュニティ「経済界倶楽部」

フジテックのドロドロ抗争劇で見えてきた「モノ言う株主」は「ハゲタカ」にあらず

国内4位のエレベーターメーカー、フジテックで3月末、創業家の会長が解任された。会長の公私混同があり、社外取締役を中心に「ノー」を突きつけたためだ。これを主導したのが「モノ言う株主」で、コーポレートガバナンス的には大きな成果を上げることになった。文=ジャーナリスト/小田切 隆(雑誌『経済界』2023年6月号より)

公私混同ぶりを暴いた投資ファンド「オアシス」

 滋賀県彦根市に本社を置くエレベーター大手、フジテックの経営をめぐる「泥沼の争い」が続いている。社外取締役の選任をめぐって大株主である香港の投資ファンドと会社側が対立し、2月の臨時株主総会では、ファンドの提案した社外取締役の一部が認められる事態に。3月には、その新たな社外取締役が加わった取締役会が、創業家会長を解任した。この経緯から分かるのは、外資系の「モノ言う株主」が、かつてのような単なる「ハゲタカ」でなく、ほかの株主の多くの賛同を獲得しうる、会社経営にとっての重要なキープレーヤーとなってきたことだ。企業はこうした時代の変化を念頭に、コーポレートガバナンス(企業統治)の改革をしっかり進めていく必要がある。

 フジテックをめぐるゴタゴタが表面化したのは、昨年5月のことだ。フジテック株の約17%を握る大株主の香港投資ファンド「オアシス・マネジメント」が、創業家出身の内山高一社長(当時)へのフジテックからの便宜供与といったガバナンスの不備があるとして、6月の定時株主総会で内山氏を取締役に再任しないよう株主に呼びかけた。

 5月にオアシスが公表した資料「フジテックを守るために」は、内山氏の親族がフジテック所有の高級マンションに住んできた事実や、フジテックが内山氏の保有する法人に莫大な金額を貸し付けている事実、内山氏が保有する法人の行った投資の失敗を補填するため、フジテックにその物件を売った疑いがある事実などを指摘した。さらには、社員が内山氏の自宅を掃除する様子まで写真付きで紹介した。

 探偵まがいの行動までとったフジテックを追及するオアシスの徹底した姿勢は、世間の驚きを呼んだ。

 6月の総会当日を迎えると、フジテックは、定時総会の1時間前に再任案を撤回し、総会後の取締役会で、内山氏を会長に就けるという挙に出る。

 この動きに対し、オアシスは「内山氏の再任案が否決される可能性が高いとみての撤回」「株主を軽視している」と批判。フジテックのガバナンスのありようを問題視し、12月、臨時株主総会を開くよう求めた。

 そしてオアシスは、現任の社外取締役すべてを解任することと、新たにオアシスが提案する候補6人を社外取締役に選任することを臨時総会に諮るとした。新たな候補には、エレベーター業界出身者や弁護士らが含まれた。

 これに対しフジテックは、オアシスが求める候補者が全員認められれば、取締役のうち3分の2を占めることになることなどから、「オアシスの本当の狙いは経営権の取得である」と反発。提案された社外取締役候補は「資質に欠ける」として、全員を否決し、新たに2人の社外取締役を加えることを提案した。

「身内」の取締役も。会長解任案に賛成

 臨時総会が開催されることになった日程は今年2月24日。直前には、オアシス側、フジテック側それぞれがメディアに登場し、お互いの考えを主張しあう「舌戦」を繰り広げた。

 あるメディアでは、オアシスのセス・フィッシャー最高投資責任者が、自らの提案する社外取締役の就任によって「フジテックのコーポレートガバナンスが改善し、営業利益率が向上する」などと主張。内山氏の会長就任のいきさつが「株主への説明を回避している」とし、「創業家の支配が事業の改善を妨げている」と指摘した。

 これに対し、フジテックの岡田隆夫社長も一部メディアに登場し、オアシスの提案する社外取締役案では「会社が傾くことになりかねない」と反発。「(会長の内山氏は)経営に携わっていない」と指摘した上で、営業利益率を向上させるというオアシスの主張に対しては、エレベーター事業は社会基盤を支える事業であり、利益率を追求すればいいものではないとの考えを述べた。

 臨時総会での議決がどうなるのか、結果は事前に読めない情勢となった。また、顧客の機関投資家に対し、総会でどう投票するべきかのアドバイスを行う議決権行使助言会社の判断も分かれた。米国の1社は、オアシスの提案に賛成するようアドバイス。一方、別の米国の1社は、オアシスが示している社外取候補6人のうち、4人には賛成し、2人には反対するべきだと勧めた。

 さらに、臨時総会直前の2月21日には、「社外取締役の1人が20日付で辞任した」とフジテックから発表される。このとき、辞任の理由は「一身上の都合」とされたが、総会後に「ガバナンスに関する考え方が大きく異なるため」と訂正された。まさに情勢は混沌としたものになった。

 そして、迎えた臨時総会の当日。彦根市のフジテック本社で開かれた総会には40人強の株主が出席した。株主からは、オアシス側が主張しているフジテックのガバナンスの不備について、説明するよう会社側に求める声などが相次いだという。

 そして、議案の議決では、オアシスが解任を求めた社外取締役5人全員のうち、3人の解任案が可決。株主の提案によって社外取締役が解任されるのは、きわめて異例のことだ。また、オアシスが提案した新たな社外取締役候補6人のうち、4人の選任も可決された。一方、フジテックが提案したほかの社外取締役候補2人の新たな選任は否決されている。

 臨時総会の結果、社長など社内取締役3人を含めた取締役は合計9人に。このうち4人が、オアシスの提案した社外取締役となった。取締役会での会社側とオアシス側の勢力は、ほぼ拮抗したことになる。

 その後もフジテックをめぐるゴタゴタは続いている。

 3月28日には、フジテックの取締役会が内山会長を解任。理由は明らかにされていないが、会社側の取締役がオアシス側につき、過半数の賛同を得て解任が決まったとみられる。

 また、フジテックは同日、臨時総会にからんで、オアシスの提案した社外取締役候補に対し「適格性、社会的信用、名誉等を毀損または低下させるような行為」がなされていたと発表。「役職員が関与していたとすると、ガバナンス上、ゆゆしき問題であるとともに、重大な法令違反行為に該当する可能性がある」とし、調査を行う第三者委員会を立ち上げることも発表した。

 この動きには内山氏も対抗して同日、東京都内で記者会見。オアシスや最高投資責任者に対し、名誉棄損による損害賠償を求めて提訴する考えを示した。創業家とモノ言う株主の「戦い」は、まだ続きそうだ。

一連のごたごた劇を静観する関西財界

 なお、一連の経緯に関し、関西財界からは「創業家側を助けよう」「ホワイトナイト(白馬の騎士)になろう」といった目立った動きは出ていない。むしろ、オアシス側から攻め込まれ、少なからぬ株主の賛同を奪われた経緯を「脇が甘い」と冷ややかに評する関係者もいる。

 関西財界の「無関心」の理由としては、フジテックが大阪府茨木市にあった本社を2006年に彦根市へ移して以降、財界活動から離れてしまったことが大きいとみられる。

 もう一つ大きいとみられる理由は、「これまでのフジテックのガバナンスのありようが、あまりにもひどい」(関係者)ことだ。

 とくに、オアシスが昨年5月に発表した創業家に対する「糾弾資料」は、登記簿や写真といった詳細な情報まで載せ、説得力が大きかった。ある意味、オアシス側が仕掛けた「情報戦」が功を奏し、関西財界の心はフジテックから離れてしまったということができる。

 今回の経緯で浮き彫りになったのは、まず、企業のガバナンスのあり方に対し、株主の見方が、よりシビアになっているということだ。そして、ガバナンスや経営の改革方法が、たとえ外資系ファンドの提案したものであっても、内容が納得できるものであれば、株主が容易に支持する時代になったということだ。

 近年は企業の情報開示が進み、インターネットを通じて、一般の人が無料で簡単に内容を見ることがきる。海外に拠点がある投資ファンドであっても、日本企業の情報を容易に閲覧することができ、経営状況を分析し、どのような改革を行えば企業価値が上がるか検討することが可能だ。

 これを考えると、株価が割安のまま放置されている日本企業の株式を外資系ファンドが買い進め、モノ言う株主として経営改革を会社側に迫るケースは今後も増えるだろう。

 また、モノ言う株主側も、企業の抱えるガバナンスの問題点を、ネットで簡単に低コストで広く発信できるようになり、一般の株主もその内容を簡単に知ることができるようになった。その改革案に納得できれば、一般株主もモノ言う株主側につき、改革案が株主総会で可決されうることは、今回のフジテックのケースで見た通りだ。

 日本では年々、モノ言う株主の存在感が大きくなってきている。かつてはハゲタカと呼ばれ、忌避される傾向にあったが、今やその意見を無視できないケースが多くなってきた。たとえば、日本産業パートナーズ(JIP)を中心とした国内連合による買収提案を受け入れることになった東芝でも、モノ言う株主と海外投資ファンドとの間で攻防が繰り広げられ、経営改革を進める上での焦点となってきた。今年7月下旬をめどに始めたい考えのTOB(株式公開買い付け)も、モノ言う株主が応じるかどうかがカギとなっている。

 今後、日本企業はモノ言う株主への丁寧で慎重な対応が求められる。そもそも自社の株式を買われないよう、非上場という道を選ぶ日本企業が増える可能性もある。

 また、「インターネットを通じた情報発信が簡単になっている」という観点では、企業はモノ言う株主だけでなく、従業員への丁寧な対処も必要となってくる。今の時代は、従業員がSNSなどを通じ、企業内の不祥事やパワーハラスメントといった問題点を容易に外部へ告発できるようになっている。問題点が世間に広く知られ、経営陣が放置しているとみられれば、企業価値は簡単に下がり、多くの株主の離反を招いてしまうだろう。

 こうした時代の変化をしっかりとらえながら経営陣は身を正し、企業の経営やガバナンス改革に取り組んでいく必要がある。