防食工事で業界に知られる丸栄産業が経営体制を刷新した。2024年9月に社長に就任した吉見学氏は企業理念と強みを堅持しつつ、グループ会社で各種プラント向けFRP製品の製造やメンテナンス工事を手掛ける丸栄化工との連携を強化し、売り上げ増を見据える。会社と社員が共に成長する善循環を目指す。(雑誌『経済界』2025年1月号「躍動する九州」特集より)
2024年9月に新体制発足。マンション修繕の拡大目指す
企業理念に「腐食への挑戦!」を掲げ、構造物を腐食・劣化から守る防食工事で業界に知られる丸栄産業。創業者である父親からバトンタッチした前社長の内田康起氏は21年間トップを務めてきたが、24年1月、成長へのポテンシャルを有する国内中堅企業へのリスクマネーの提供を通じ「日本を元気にする」という趣旨に基づき、投資先企業の支援を行うライジング・ジャパン・エクイティが同社の全株式を取得。同年9月から新体制となった。
同日付で就任した吉見学社長は、企業理念や丸栄産業が培ってきた強みを堅持しつつ、さらなる発展を目指していく。就任1年目の25年7月期のスローガンとして「伝統と革新の調和~さらなる飛躍への第一歩」を掲げ、経営を舵取りしていく。
1958年の創業以来、同社は全国で工事実績を重ね、現在は本社のほか北海道、関東、中部、近畿、九州などに14拠点を展開する。
売り上げの約8割は重防食と呼ばれるプラント・鋼構造物向けの工事。次いでコンクリート防食とマンション・ビルリニューアルが1割ずつを占める。重防食は国内大手の製鉄所や製油所構内でプラント設備の防食・メンテナンスを手掛ける。コンクリート防食は、高速道路の橋脚補強を主軸に下水処理場での工事実績も増えてきた。マンション・ビルリニューアルは重防食とコンクリート防食のノウハウを生かして20年ほど前から取り組んでいる。
これらの3事業により近年の業績は安定。売上高は約45億円前後で推移しており、営業利益も一定水準を毎年確保している。
それでも吉見社長は満足しない。「継続的にお仕事を頂けているのはありがたい。一方で、お客さまの設備投資に依存しているのも事実。当社から提案できるものを増やし、従来の売上規模にプラスオンしたい」と意気込む。
キーポイントは、マンション・ビルリニューアルの事業拡大と重防食でのコンサルティング業務への注力だ。マンション・ビルリニューアルは北九州エリアを中心に事業展開してきた。今後はエリアを拡大し、福岡市とその周辺地域での展開も見据える。
重防食でのコンサルティング業務は「防食塗装にとどまらず、お客さまのお困り事を新たに見つけて対応策を検討していく」(吉見社長)もので、これまで九州の一部拠点で手掛けてきた。これを全国の拠点で進めていく。そのための社員の技術研鑽にも力を入れていく。
社員の技術力向上も後押し社内では女性も活躍中
同社は経営方針を「人で勝つ!」と定め、補修・メンテナンス工事に特化した「プロフェッショナル集団」であることを目指す。このため社員の技術力を向上させる施策にも積極的だ。例えば、約30人いる1級建築施工管理技士や1級土木施工管理技士の有資格者を約80人以上まで増やす。実務経験が受験資格を満たした社員の資格取得を後押ししていく。
また、社員に活躍してもらうため、人事評価制度もブラッシュアップする。22年に報酬体系や昇格条件を明確化。24年秋からは客観性を持った管理職適性検査を導入。将来有望な幹部候補社員の得意分野をさらに伸ばすことや、本人も気付いていない適性を掘り起こすきっかけとしている。
採用にも余念がない。新卒については、近年は地元の大学出身者を中心に6~7人を採用。男女問わず「防食の分野で施工管理をやりたい」と望んで入社してくる新卒者が多いという。吉見社長は「防食工事の実績で九州ナンバーワンであることを前面に打ち出しているが、それが学生に刺さっている」と分析する。
若手女性社員の活躍も目立つ。九州工業大学出身で、工学博士と1級土木施工管理技士の資格を持つ入社14年目の女性社員は、技術開発部門に配属され、新しい防食塗料の研究開発に携わった。地元の土木建設材料メーカーと協力し、約6年の開発期間を経て、20年に亜硝酸イオンの効果が見込まれるセメントをベースにした作業性の良い新塗料を完成。新塗料は既に現場で使用されており、今後は外販も検討していく。
同じ小倉鉄工団地内に本社を構えるグループ会社で、全国の製鉄所を中心とするプラント向けにFRP製品の製造やメンテナンス工事を手掛ける丸栄化工(福岡県北九州市)との連携強化も図る。両社は資本関係を有していながら、これまで独立的に運営されていたため、グループ会社であるという意識が希薄であったが、現在は両社の経営および現場でのコミュニケーションを密にし、丸栄グループとしてのシナジー創出に向けて取り組んでいる。
吉見社長は全社員に対して、「会社が良くなれば、社員が良くなり、さらに会社が良くなる」という善循環の実現を訴えた。技術研鑽を惜しまない社員が活躍する同社には既に善循環の素地がある。
会社概要 創業 1958年6月 資本金 1億円 売上高 単体46億円、連結72億円(2024年7月期) 本社 福岡県北九州市 従業員数 単体121人、連結201人(2024年7月末) 事業内容 塗装工事、コンクリート防食、マンション・ビル改修工事ほか 関係会社 丸栄化工(福岡県北九州市) https://marueisangyou.jp/ |