北海道帯広市に本社を置き、日本全国で航空シェアサービス「エアシェア」とライドシェアサービス「ドライバ」を展開するエアシェア代表取締役CEOの進藤寛也氏。「パイロットに飛ぶ機会を提供するとともに、日本の交通空白地域をなくしたい」と語る。交通シェアリングが生む未来の移動の形とは。文=大澤義幸 Photo=スマヒロ(雑誌『経済界』2025年10月号より)
進藤寛也 エアシェアのプロフィール

進藤寛也 エアシェア代表取締役CEO
しんどう・ひろや 1988年、北海道帯広市出身。釧路工業高等専門学校、信州大学、信州大学大学院修了。大学時代にグライダーで飛ぶ魅力を知る。東日本大震災後の2011年、家業の進藤鋳造鉄工所を継ぐために帯広に戻る。16年エアシェア起業。20年より「エアシェア」、25年より「ドライバ」開始。
グライダーの体験搭乗会で空を飛ぶ魅力に取り付かれる
「航空シェアサービス『AIRSHARE(エアシェア)』、ライドシェアサービス『DRIVA(ドライバ)』の二つで、日本全国に存在する移動困難な交通空白地帯をなくしたい。そんな想いを持って事業を展開しています」
そう話すのはエアシェア代表取締役CEOの進藤寛也氏。
2020年に同社がローンチした「エアシェア」は国内外の旅行者など移動したい人、航空機オーナーや事業者、事業用操縦士資格を持つパイロットの3者をマッチングさせるウェブベースのプラットフォーム。航空機のシェアリングサービスを、ITを利用したスキームの開発で実現し、特許を取得(「被操縦機器貸与利用マッチングシステム」)。日本で初めて国土交通省から航空法上の適法性、運航上の安全対策が認められ、「航空業界に風穴を開けた」と言われている。
これを応用したのが「ドライバ」で、25年9月のローンチを目前に控える、移動したい人、自動車オーナーや事業者、第一種運転免許を持つ一般ドライバーの3者を結ぶアプリサービスだ。利用者は車両オーナーと賃貸借契約を、ドライバーとは業務委託契約を結ぶことで、運送事業ではなく自家用運行によるライドシェアとなり、タクシー乗務等に必要な第二種運転免許も必要としない。さらに、白タク行為に当たらないとの国のお墨付きを得ている。
このサービスを考案した進藤氏は、北海道帯広市の鋳物屋の息子として生まれた。幼い頃から頭上を飛ぶ陸上自衛隊のヘリコプターを見て育ち、ヘリに乗りたい、整備士になりたいという憧れを抱いていた。その後、釧路高専で機械工学を5年間学び、信州大学に編入。そこで出合ったのがグライダーのサークルだった。
「それまで8年間トランペットを吹いていて、ソロコンクールで金賞を受賞したこともあります。大学でも音楽サークルも探しましたが、その時に偶然見かけたのが航空部のグライダーの体験搭乗会で、話のネタに搭乗させてもらったんです。空を飛んだ瞬間、旅客機とは違う音のない世界と上昇気流をつかまえる浮遊感、手や体に伝わる感覚、その瞬間にしか見られない四季折々の自然や木の葉の揺れに魅了され、『トランペットを吹いている場合じゃない』と思ったんです」
その後22歳でグライダーの自家用操縦士のライセンスを取り、「長野でグライダーに乗り続けるために」信州大学大学院に進学。その後はエンジニアの仕事に就き、週末は長野で飛ぶという生活を過ごした。
30歳を前に、家業を継ぐため帯広に戻り、航空機の社会人クラブに参加。仲間と航空機を共同購入したのと同時期に、パイロットを育てるNPO法人を創設。そこで見えてきたのが航空機業界のひずみだった。
パイロットに空を飛ばせたい その想いから会社を起業

「エアシェアを起業したのは、ライセンスを保有しながらも就職待ちで飛ぶ機会のないパイロットに、その機会を提供したい、プロとしてお客さまから対価を受け取ってフライト経験を積んでほしいという想いから。私は自分が飛ぶのも好きですが、他の人が飛ぶのを見たりサポートするのも好きです」
昔も今も大空に憧れる人は多い。ライセンスを取れば飛べる、と思いがちだが、実際は「想像以上に狭き門」が立ちはだかる。
王道なのは公的エアライン・パイロット養成機関である航空会社のパイロット候補生採用になるか、航空大学校に行くこと。就職条件として500時間のフライト経験を積むために、民間スクールのトレーニングコースや私立大学の航空関係の学科に通うのに4千万円程度が必要になると言われる。あるいは自衛隊や海上保安庁に入るなどの道もある。また、日本で航空会社はエアライン含め71社ほどしかなく、常にパイロットを募集しているわけではない。
「航空会社の設立も考えましたが、整備場を造り、1機4千万円以上する機体を購入・維持し、従業員を雇用して設立申請して、売り上げのない状態で許可が下りるのを何年も待つのは現実的ではありません。そこで航空機シェアの会社であれば、パイロットにも、高い維持費をかけて機体を遊ばせているオーナーにも、自由に移動したい旅行者にも価値を提供できると考えたのです」
そのサービス適用地域は全国に及ぶ。ただし、旅客機が定期運航している都市などは旅客機の方が移動費も安価で定時性もあるため、交通の便の悪い地域でこそ真価を発揮する。
現在の登録パイロット数は45人。最低300時間のフライト経験があり、500時間以上という人も多い。日本では小型機、ヘリコプター、旅客機など700機が航空機登録されており、同社の登録運航可能機体数は45機(日本第3位)。機体の整備は国の検査基準に則って毎年実施され、200時間飛ぶと重整備も行われるため、国交省により安全性も確認されている。
利用例として、旅行者など移動したい人が、人数、日時、発着陸空港、航空機、パイロットを選択してウェブサイトからオファーする。すると専用チャットができ、「実家の近くを通る時は高度を下げてほしい」など詳細なオーダーが可能となる。
料金は4人乗りのホンダジェットの1時間チャーターで搭乗費は44万円、あべのハルカスを周回する数分の遊覧飛行で1機3万円など。そこからパイロットへの報酬、オーナーへのレンタル費用が分配され、残りがエアシェアの売り上げとなる。
「セスナ機の場合、1人単価で考えれば意外とリーズナブルです。特別な例では、帯広から埼玉の移動で旅客機は気圧が低いので飼い猫を乗せたくない、船は長時間移動になるので具合が悪くなる。そこでエアシェアを利用し、帯広︱埼玉間で猫の具合が悪くなった時にいつでも下りられる空港を探しておき、高度を3千mから2千mに下げて回送費込みで200万円のフライトをしたことがあります。最近多いインバウンドの観光旅行から短時間の遊覧飛行までオリジナルプランを設計できるのは、小型機ならではの応え方です」
ローンチ直後のコロナ禍の外出禁止、渡航禁止などの困難を乗り越えた現在は利用者が急増しており、月120万円程度の売り上げがある。
「国内の航空機マッチング市場の独占はできたので、今後は事業会社との連携を深め、航空シェアサービスの認知を高めていきたい。経済産業省の推計では、30年の日本の空飛ぶ車関連サービスの市場規模は6千億円とされています。空飛ぶ車は重量が小さく、小回りが利く半面、飛行距離が短いというデメリットがありますが、将来的には空飛ぶ車も当社のラインナップに加えたい。近場は空飛ぶ車、少し離れた場所へはヘリコプター、遠い場所は飛行機という事業を展開していきます」
そして今年9月、このビジネスモデルを応用したライドシェアサービス「ドライバ」をスタートする。
「日本の地方の課題として、例えば帯広や十勝に航空機で飛んでも、空港から目的地までの足がないなどが挙げられます。現地にタクシー会社やバス会社があっても、夕方には営業を終了してしまいます。『ドライバ』は運行エリアや運賃上限、時間等の縛りがないため、従来の交通スキームでは収益性が難しかった地域でも、現地の交通事業者などと連携して新しい事業を開発できます。地域の雇用も増える、地域貢献性の高いサービスです」
その適法性については先に述べた。さらに現地のタクシー会社などとも競合しないのだという。
「地方のタクシー会社は従業員の雇用や福利厚生の面から、24時間営業やシフト制の雇用形態をやめたいとところも多く、『深夜営業をお願いしたい』という声も届いています。そこで『ドライバ』を活用し、車両のレンタル料や、もっと稼ぎたいドライバーへの報酬を売り上げとしてもらえばいい。今後は交通事業者との協業を増やしていきたいですね」
「エアシェア」で小型機の利用を増やしていき、「ドライバ」とのシナジーで移動したい人のラストワンマイルを埋めていく。そのために「まだ協力が必要。いろいろな方に力を貸してほしい」と言う。
世の中の三代目、四代目は成長のために自己資本で起業を
進藤氏は現在、進藤鋳造鉄工所の三代目として家業を営む傍ら、エアシェア代表を務める。家業とは別にベンチャー企業を立ち上げたことで、価値観が大きく変わり、人間的な成長も実感したという。
「ベンチャー企業は世の中にない事業を手掛けるので、それまで自己完結できていたやり方が通用しません。そうなると、できる人や分かる人にお願いするしかない。それまで家業もあり不自由もなく生活してきて、大学を出て自分自身を過信していましたが、世の中にはすごい人がたくさんいると気付かされ、『助けてほしい』と言えるようになりました。私と同じような三代目や四代目は、家業とは資本関係のないところで起業してみるといい。成功しても失敗してもいい経験になりますから」
スマートでありつつも「大切にしているのは義理人情」と語る進藤氏。「交通空白地帯をなくしたい」という熱い想いから生まれたサービスは、翼を広げたユニコーンのように日本の空と陸を駆け巡るだろう。

