2025年6月、九州経済連合会(以下、九経連)の会長に、九州電力会長の池辺和弘氏が就任した。「九州を元気にしたい」と語る池辺会長に、九州経済の現状や課題、そして目指す九州の姿について聞いた。(雑誌『経済界』2026年1月号より)
池辺和弘 九州経済連合会のプロフィール

いけべ・かずひろ──1958年大分県生まれ。81年東京大学法学部卒業後、九州電力入社。発電本部部長、経営企画本部部長、執行役員、取締役常務執行役員を経て、2018年代表取締役社長執行役員に就任。25年6月から九州電力代表取締役会長、九州経済連合会会長を務める。
将来性の高さは九州の財産
── 九州経済は今、どのような状況にあるとお考えでしょうか。
池辺 企業が新しい工場などを建設する際、電力契約を結びます。これは経済の先行指標になります。
その観点から見ると、TSMCの熊本進出をきっかけに、九州では電力契約の相談が相次いでいます。半導体産業の影響は川上から川下まで極めて広い。半導体そのものの製造工程から、完成品を製品に組み込むデバイス加工、さらには半導体製造用ロボットを手がける企業まで含めると、関連産業は多岐にわたります。
もう1つ顕著なのは、データセンター需要の拡大です。AI検索は従来の約10倍の電力を消費するため、AIの普及に伴って電力需要が増加しており、九州でも計画が進んでいます。
実際、日本政策投資銀行が2025年8月に発表した九州7県での25年度設備投資計画は、前年度比4・5%増の8248億円と堅調さを維持しており、九州は将来に向けて元気がいい地域だと言えます。
── インバウンドについてはいかがでしょうか。
池辺 24年は九州7県で500万人と、過去最高だった18年(511万人)に次ぐ実績でした。また、25年1〜7月の速報値では318万人(前年比108%)と、昨年を上回るペースで好調です。
ただ、韓国・台湾・中国などのアジア系の旅行者は多いのですが、欧米系の旅行者は少ない。欧米の方々は東京・京都を巡り、広島まで足を運んでも、その先の九州まではなかなか来ていただけない傾向があります。こうした方々にももっと九州に来てもらえるよう取り組みを進めたいですね。
福岡市を中心に西日本・九州の自治体首長が発起して23年に設立した「西のゴールデンルートアライアンス」では、自治体・観光機構・民間事業者が一体となり、地域の魅力発信に取り組んでいます。
半導体エコシステムの構築と農業分野の強化に注力
── 今後、注力する課題は。
池辺 まず、新生シリコンアイランド九州構想を確実に軌道に乗せることです。これは単に企業を誘致するだけでなく、雇用・育成・イノベーションが自然に循環するエコシステムづくりが重要だと考えています。
そのための喫緊の課題がサイエンスパークの整備です。ここは「後の祭り」にならないよう、スピード感を持って取り組まなければなりません。九州各地に点在する半導体拠点を有機的にネットワーク化し、半導体産業のエコシステムを構築します。
農業分野の強化にも引き続き取り組んでいきます。担い手不足が深刻化する中、九経連は経団連と共同で「農業活性化に向けた企業タイアップセミナー」を開催し、域外企業の農業参入を進めています。
また、農林中金、JA全農ふくれんと三者協定を締結し、農家と働き手をつなぐマッチングアプリ「daywork」を活用した人的支援の取り組みを実施。地域企業の社員が副業などで農業に携わり、労働力不足の解消を支援しています。さらに、避けては通れないスマート化については、国立農研機構と共同で「中山間地域スマート農業導入モデル」を構築。導入メリットを見える化し、自治体へ活用を働きかけています。
そのほか、九経連をもっと多くの方に知っていただき、活用してほしいとの思いから、25年9月にインスタグラムを開設しました。広報活動を強化し、九経連の活動を身近に感じてもらえるよう情報発信に力を入れています。
九州の特性に適したルールづくりを目指す
── 池辺会長が思い描く「元気な九州の姿」についてお聞かせください。
池辺 何よりも「働く場があること」だと考えています。子どもたちが将来「九州で働きたい」と思える仕事がたくさんあること。それが私の思う元気な九州です。
若い世代、特に女性が「帰ってきたい」と思える九州にすることはとても重要です。現在は「九州に帰ってもやりたい仕事がない」といった理由から、九州を離れたいという声もあります。それを払拭し、若い女性にも働きがいがあり、自己実現できる職場がある地域にしていきたいと考えています。これは一朝一夕にできることではありませんが、少しずつ環境を整えていきたいですね。
そのためには、現実にそぐわない規制を見直し、九州という広域リージョンに適したルールをつくり、運営していくことが最も効率的ではないでしょうか。九経連として、しっかり声を上げていきます。

